鏡の中の12時

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大学生の翔太は最近引っ越したばかりのアパートで、古い姿見を見つけた。前の住人が置いていったものらしいが、アンティーク風の木枠が気に入り、そのまま部屋に置くことにした。ある夜、ふと鏡に目をやると、時計の針が12時を指した瞬間、鏡に映る自分の目が不自然に揺れたように見えた。

「気のせいか…」そう思ってそのまま寝たが、翌日も同じ現象が起きた。

鏡の前に立つと、違和感が募る。いつもなら鏡の中の自分と動きが完全に一致するはずなのに、微妙に遅れている。そして、12時ぴったりになると、鏡の中の自分がまるで別の生き物のように翔太をじっと見つめた。

さらに奇妙だったのは、鏡の中の部屋の様子が現実と少しだけ違うことに気づいたことだ。現実には閉まっているクローゼットの扉が、鏡の中では少し開いている。

翌日、友人の健にその話をすると、「それ、本当に鏡なのか?」と意味深なことを言われた。健は昔、鏡を使った怖い話を聞いたことがあるという。その話では、鏡はただの反射ではなく、別の世界への入り口だとされていた。そして、その世界では自分の「影」が本当の自分を引きずり込むチャンスを狙っているというのだ。

翔太は馬鹿げた話だと思いつつも、深夜12時に再び鏡の前に立つことを決意した。そして、時計が12時を指した瞬間、鏡の中の自分が不気味に微笑み、こう言った。

「そろそろ、こっちに来る時間だ。」

翔太は慌てて鏡から離れようとしたが、身体が動かない。鏡の中の自分が、こちら側に手を伸ばしてくるのが見えた。まるで水面を突き破るように、その手が現実の世界に出てきたのだ。翔太は必死に叫びながら抵抗するが、鏡の中の「影」が彼の足を掴み、ゆっくりと引きずり込んでいく。

その瞬間、すべてが暗転した。

次の日、健がアパートを訪れたが、翔太はどこにもいなかった。ただ、鏡の前には翔太のスマホが落ちていた。そして、ふと鏡を覗き込んだ健は凍りついた。そこには鏡の中から助けを求める翔太の姿が映っていたのだ。

「助けてくれ…でも、絶対に12時には近づくな…!」

健は慌ててその場を離れたが、それ以降、夜になると彼のスマホに「鏡の前に来い」という翔太のメッセージが届くようになったという。

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