通報

-

地元の小さな町に住む警察官の翔太は、ある晩、奇妙な110番通報を受けた。電話の向こうからは、小さな子どもの震えた声で「助けて…お母さんが…」という言葉が聞こえた。しかし、音声はすぐに途切れ、発信元を追跡しても、場所は町外れの廃屋を指していた。

その廃屋は10年以上前、幼い兄妹が母親と一緒に住んでいた家だったが、ある日を境に一家は行方不明となり、家だけが取り残されていたという噂がある。地元では「入ると帰れない」とされ、誰も近づかない場所だった。

翔太は同僚を呼ぼうとしたが、急な大雨と通信障害のため一人で現場に向かうことになった。懐中電灯を手に廃屋に入ると、湿気とカビの匂いが鼻を突き、床は腐りかけていた。電灯の光を頼りに部屋を一つずつ確認していくと、壁や家具には子どもの落書きが散乱しており、「一緒に遊ぼう」「隠れんぼしよう」といった意味深な言葉が書かれていた。

奥の部屋に進むと、かすかなすすり泣きが聞こえてきた。ドアを開けると、暗闇の中に、小さな影が見えた。それは、うつむいて座り込む一人の女の子だった。

「大丈夫?警察だよ」と声をかけると、女の子はゆっくり顔を上げた。しかし、その目は真っ黒で光を反射せず、まるで深い井戸を覗き込むようだった。翔太は背筋が凍りついたが、「何があったんだ?」と声を振り絞って問いかけた。すると、女の子は首をかしげながら、無表情で言った。

「お母さんを見つけたの。次は、あなたが一緒に探して。」

その瞬間、背後の扉が激しく閉じ、翔太の懐中電灯が消えた。暗闇の中でかすかに聞こえるのは、無数の子どもたちの笑い声と「見つけたよ」という囁き声だった。

翌朝、同僚たちが現場に到着したとき、翔太の姿はどこにもなかった。しかし、廃屋のリビングには、翔太が使っていた警察手帳と、壁に書かれた大きな赤い文字が残されていた。そこには「もう逃げられない」と書かれていた。

必須フィールドを埋めてください



コメントを残す

コメントを残す