影に溶ける家

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ある日、大学生の亮太は友人の健から奇妙な話を聞いた。健の実家の近くにある廃屋にまつわる都市伝説だ。その家は「影に溶ける家」と呼ばれ、夕暮れ時になると影が家を包み込み、完全に消えるというのだ。そして、その家で失踪事件が何度も起きているという。

興味をそそられた亮太は、健と一緒にその廃屋を訪れることにした。到着したのはちょうど夕暮れ。廃屋は古びた瓦屋根とひび割れた窓が特徴で、不気味な静寂に包まれていた。

「本当に消えるのか?」亮太が半信半疑で尋ねると、健は時計を見ながら言った。
「もうすぐだから、見ててみろ。」

日が沈むにつれ、廃屋の周囲に濃い影が伸びていった。影は家の壁や窓を次々と覆い尽くし、やがて家全体が闇に溶け込むように見えなくなった。

「嘘だろ……」亮太は言葉を失った。だが健は言う。
「もっと近くで見てみないか?」

二人は廃屋の跡地に近づいた。完全に消えたかのような家の代わりに、そこには何もない黒い空間が広がっていた。不気味な静寂の中、健が突然その空間に手を伸ばした。

「やめろ!」亮太が止める間もなく、健の腕は黒い空間に飲み込まれた。その瞬間、健の顔が恐怖に歪み、次の瞬間には全身が闇の中へ引きずり込まれてしまった。

「健!どこだ!」亮太は叫びながら空間を覗き込むが、そこには何も見えない。ただ、耳元で誰かのささやき声が聞こえた。

「次はお前だ……」

その声に亮太は背筋が凍り、全速力でその場を離れた。後ろを振り返ると、廃屋が再び姿を現していたが、健の姿はどこにもなかった。

その後、亮太は警察に通報するが、健の行方はわからないまま。廃屋の跡地を調査しても何も見つからなかった。

数年後、亮太は再びその廃屋を訪れることになる。なぜなら、失踪事件の噂が再び増え始め、そこに「健」と名乗る人物が関与しているという情報を耳にしたからだ。

廃屋の前に立つ亮太は、夕暮れの影が再び家を包み込むのを見つめながら、あることに気づく。影の中で微かに笑っている「健」の顔が見えるのだ――自分を招き入れるかのように。

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