終わらない参拝

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ある寒い冬の夜、大学生の真紀はゼミの研究資料をまとめるため、地元の歴史的な場所を訪れることにした。彼女は特に、地元で古くから語り継がれる”鏡塚神社”に興味を持っていた。この神社は、不思議な伝承や怪異譚が数多く残されており、地元の人々からは「夜には近寄るな」と言われていた。

真紀はその警告を気にも留めず、夜遅くに神社へと向かった。神社は山奥にあり、雪がしんしんと降る中、彼女は懐中電灯を片手に足を進めた。鳥居をくぐると、冷たい風が一層強くなり、まるで歓迎されていないような気分になった。しかし、彼女は好奇心に突き動かされ、そのまま参道を進んでいった。

境内に着くと、誰もいないはずの場所に、ひどく古びた巫女装束を着た女性が立っていた。その女性は真紀に気づくと、ゆっくりと微笑みながら近づいてきた。

「遅くまで熱心ですね。こんな時間に参拝に来る方は珍しいですよ。」

その言葉に少し緊張した真紀だったが、資料集めのためだと伝えると、女性は興味深げに頷いた。

「よろしければ、神社の奥にある御神体を見せてあげましょう。滅多に見られるものではありませんよ。」

その言葉に心を動かされた真紀は、女性の案内で本殿の裏手にある小さな祠に向かった。祠の中には大きな鏡が祀られており、その鏡は異様にきらきらと輝いていた。

「これが鏡塚神社の御神体です。見入ると、自分の本当の姿が映ると言われています。」

女性の声がどこか遠く感じられ、真紀は無意識のうちに鏡を覗き込んだ。しかし、鏡に映ったのは自分ではなかった。そこに映っていたのは、見たこともない真っ黒な目を持つ人物だった。驚いて後ずさると、背後にいた女性の姿が消えていた。

焦る真紀は祠を飛び出し、境内へ戻ろうとした。しかし、どうしても鳥居の方向に辿り着けない。歩いても歩いても、同じ祠の前に戻ってしまうのだ。時間の感覚もおかしくなり、月が沈む気配すらなかった。

さらに奇妙なことに、境内には何人もの人影が現れ始めた。その全員が、異様に古い服を着ており、顔には表情がなかった。彼らは真紀を取り囲むように近づいてきた。

「あなたも、ここに残りなさい。」

先ほどの巫女の声が背後から聞こえたが、振り返る勇気はなかった。真紀は必死に逃げようとしたが、足が重くなり、まるで地面に引き込まれるようだった。

その時、ふいにポケットに入れていたスマートフォンが震えた。友人からのメッセージ通知だった。真紀はスマートフォンの画面を見て、わずかな安心感を覚えたが、次の瞬間、画面に映る文字がゆっくりと崩れ始めた。

「戻れないよ。」

その一言が画面いっぱいに浮かび上がった後、スマートフォンは完全に沈黙した。

その後、真紀がどこへ行ったのかを知る者はいない。ただ、地元の人々の間では、鏡塚神社で行方不明になる人が後を絶たないという噂が再び広まり始めた。

そして、あの神社に夜に近づく者は、次第にいなくなったという。

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