翔太は、個人経営のカフェを立ち上げてから半年が経つが、思うように集客が伸びず苦悩していた。そんな中、深夜にネットサーフィンをしていると、「すべての問題を解決するコンサルタント」という怪しい広告が目に留まった。軽い気持ちでフォームに名前と連絡先を入力した翌日、見知らぬ番号から電話がかかってきた。
電話口の男は低い声で名乗りもせず、ただこう言った。
「お困りのようですね。あなたのカフェを繁盛店にする方法を教えましょう。」
不気味に思いつつも、翔太は話を聞くことにした。男は具体的で実現可能なアドバイスをいくつも提示し、最後にこう告げた。
「代償は『忘れたい記憶』です。それを引き取る代わりに成功を約束しましょう。」
翔太は半信半疑だったが、「忘れたい記憶」と言われ、昔の恋人とのつらい別れが頭をよぎった。「それで済むなら」と軽い気持ちで承諾したその瞬間、電話が切れた。
翌日から、カフェには驚くほど多くの客が訪れるようになり、SNSでも話題となった。思わぬ成功に翔太は喜んだが、ふとあることに気づいた。かつての恋人の顔が、どうしても思い出せないのだ。
さらに奇妙なことが起こり始めた。店内にある鏡に、自分ではない誰かの影が映り込む。閉店後の静かなカフェで、誰もいないはずの椅子がきしむ音がする。そしてある晩、翔太が売上帳簿を見ていると、背後から囁く声が聞こえた。
「次は何を差し出しますか?」
振り返るとそこには誰もいなかったが、鏡には黒い影が翔太を見下ろしていた。影の形はまるで、自分が失った記憶そのものが具現化したかのようだった。翔太は震えながら、もう一度電話番号をかけたが、「現在使われておりません」という無機質な音声が響くだけだった。
成功を手にした翔太のカフェは繁盛し続けたが、翔太自身は夜ごと鏡に映る影に怯え、少しずつ正気を失っていったという。
そして今もそのコンサルタントは、新たな依頼者を待っている。あなたの忘れたい記憶を狙って…。
コメントを残す